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現在のアニメファン、アニソンファンには、かつて『電車男』で描かれたようなステレオタイプな“オタク”は少なく、ファッションにも気を遣い、アニメ以外の興味関心も高い、いわゆる“新・オタク”が増加している。彼らを“リア充オタク”と名付けた原田曜平氏に、現在のアニメファンの実態を聞いた。


■新オタクを市場化する方策に取り組む時期にきている

 原田曜平氏は、若者世代への入念なヒアリングなどを基に「マイルドヤンキー」「さとり世代」など、示唆に富んだ概念を提唱してきた。近著『新・オタク経済』では、急速に変化・拡大しつつあるオタク市場を「リア充オタク」というキーワードで改めて捉え直す試みを行っている。

「まだ名前こそ付けられてはいないものの、そこに明らかな新しい市場や可能性が潜んでいるなら、ひとまず呼び名を付けてイメージを把握してみては、と提示するのが私の役割だと考えています。「リア充オタク」の場合も、旧来のコアなオタクの方たちからは懐疑的な意見もありましたが、新たなオタクと呼ぶべき層が実際にかなり増えてきているという現実から、彼らを真剣に市場化する方策に取り組む時期ではないかと考えた結果としてのキーワードです」

「リア充オタク」の特徴としては、友人や恋人などとの関係性も良好で、社交的。ことさら自身のオタク性を隠さず、むしろ積極的にアピールすることでコミュニケーションを活性化する。「あまり物を買わない」「おしゃれ」「発信型でアクティブ」といった傾向があるという。

「動画サイトや検索サービスを含めたインターネット環境の整備などによって、現在はその気にさえなれば、簡単にあるコンテンツについての知識を得ることが可能です。さらに、SNSの普及によって、オタク的な属性を自身のパーソナリティにおけるキャラクターの1つ=コミュニケーションツールとして活用することが有効になっています。特に今の10代後半~20代前半の若者については、外見上で一昔前の「アキバ系」のような特徴を備えたオタクはほぼ消滅。同時に、カジュアル化・ライト化が進んできています。結果、程度の差はありますが、より広範な層が自身のオタク的な性質について自覚的になってきている。多様なコンテンツのオタク的な消費者となり得る状況にあります」

 例えばあるマンガを(マンガ喫茶で)全巻読破した、あるアニメ作品を1作品だけ全話視聴した、といったレベルで、すでにオタクを自称する例も増えている。これを『新・オタク経済』では「リア充オタク」の中で「エセ」と分類している。

「ただしここで重要なのは、そうやって彼らが自称したがるほど、“オタク”というものはコミュニケーションの中で有効なツールになっているということ。彼らは書籍代やDVD代にはあまりお金を使わなくても、例えばファンイベントなどのライブやキャラクターなどについては、そのコンテンツの消費者になるかもしれないわけです。可処分所得に占めるオタク的なモノ・コトへの消費は、コア層に比べれば少ないかもしれませんが、その分、そうしたライトな層は確実に厚くなってきています」

 原田氏は市場がそこにあるにもかかわらず、まだまだ訴求できている商品は少ないと指摘する。

「例えば『進撃の巨人』であれ、『ドラゴンボール』であれ、コンテンツとコラボしますという一般企業側も、実態としては最後のプロモーションや広告の部分に付け足す程度の取り組み方がほとんど。本腰を入れて、このライトなオタク市場を正面から育てようという企業や商品は、まだまだ少ないように感じます」

 一人あたりの消費金額は少なくても、オタク市場の成長エンジンとして顕在化しつつある「リア充オタク」。彼らの消費マインドをどう開拓するかが今後の大きな課題となりそうだ。